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2017/11/11

「食うか食われるか」第1話

「食うか食われるか」第1話
手っ取り早くエロが書ける設定だと思ったのに意外とだらだらしてしまって……。



「食うか食われるか」第1話




立海出版第一編集部『月刊ヤングクラブ』編集長兼部長の幸村精市は、昨夜の出来事を大いに悔やんでいた。
「おはようございます幸村部長!」
「…あ…ああ、おはよう……」
(頼むから静かにしてくれ~)
部員の挨拶もこんな日は鈍器の如く頭に響く。そっとしておいてほしい。が、こんな日に限って部下たちは定時どおりに出社してくるのだから嫌になる。
「おはようございます、編集長。昨日はお疲れ様でした」
「……うん……」
「あれ、顔色が悪いですね。大丈夫ですか?」
大丈夫だから。とデスクに突っ伏すと、数本目のドリンクを開ける。
(……あー……だめだ……今日は早く出よう。仕事にならない……)
昨夜、深夜までかかると思っていた『月刊ヤングクラブ』の校了が珍しく夕方に終わってしまい、部員らを連れて打ち上げに繰り出した。「お先に失礼します!」という部員を一人帰し二人帰しと見送っているうちに、一人でつい深酒をしてしまった。
気付けば知らない女とホテルのベッドに寝転がっていたなど、誰にも言えない話である。
「編集長!!」
(……うるさ……)
「……うん……なにかな」
「モリプロの太田さんがいらっしゃってます!」
「……またあいつか……いないって言ってく……」
「あっ…いるって言っちゃいました……」
はははは。と苦笑しながら、幸村は重い腰を上げた。
まあいい。適当に応接室で応対して、しばらくそのままソファーで寝よう。
たまには役に立つじゃないか太田。と幸村に思わせるこの太田という男は、大手芸能プロ「モリプロ」の“女衒”と呼ばれる男だった。
『月刊ヤングクラブ』のグラビアに載せてくれと、若手アイドルを連れてたびたびやってくるのだ。

「あっ幸村局長!!お疲れ様です~っ!!」
(……うるさ……)
「……局長って……」
「いやいやー次期局長間違いなしだからいっそ、もう局長って呼んじゃおうかなって!」
(……調子のいいやつ……)
「……悪いけど今日は体調が悪くてね……用件は……」
ああ。と、幸村は目を細めた。
どうやら太田のうしろに隠れている小柄な娘が今回の“商品”らしい。
(……おいおい嘘だろ……ついに小学生か……)
「おおっとーっやだな~幸村さん、エロい目で見ないでくださいようちの秘蔵っ子を~」
「……だ…誰がエロい目……」
「ほら!ちゃんと挨拶しろ!!未来の局長、いや社長かもしれないお人だぞ!?」
「………………」
すっかり萎縮してしまっているのか、黒髪に真っ黒な瞳がまるで黒猫のようなその少女は、おおよそ芸能人とは思えないほどのだんまりを決め込んでいる。
つい、しゃがんで“お名前はー?”と訊きたくなってしまうほど幼い。
「……え…えちぜん……りょーま……です………」
「………で、その子を載せろって?」
「知ってますよ~次の巻中、まだ決まってないんですよねー?」
(……なんで知ってる……)
「……決まっていないにしても、なんの実績も無い子をいきなり載せられるか」
第一、 水着になって映える体とは到底思えない。
「太田、ヤンクラ(ヤングクラブの略称)はロ●コン雑誌じゃない。そんな小さい子を載せられるわけがないだろ」
「え?」
「……え?」
「やだなー幸村さん、リョーマはこう見えても1×歳なんですよー?」
「……うそだろ……」
「条例ではNGだけど、結婚すればエッチできる年齢だもんなー?リョーマ?」
リョーマは今にも泣き出しそうな顔で俯いている。
「……あー…とにかく、年齢がOKでもうちじゃ無理だ。わかるだろ?セクシームチムチ路線なんだよヤンクラは」
「リョーマ、脱げ」
「………何を………」
「早く脱げ!」
びく、と震えると、リョーマは思い切った様子でシャツワンピースを捲り上げ、脱ぎ捨てた。
「………!!」
水着を着ていることにほっとしたが、幸村が眼を瞠ったのはそこではない。
ほっそりとした長い手足、乳白色の滑らかな肌、しかし思わず喉を鳴らしたポイントは、幼い顔立ちに似合わない豊満なバストとふっくらした腰回りだった。
(……やばいなこれは……)
「…………ね?」
「な…なにが“ね?”だ……」
「“やばいなこれは”って思ったでしょ」
「………!!」
こいつ、さすがモリプロマネージメント部の元エースというだけのことはある。
「……まったく、どこで見つけるんだこんな子を……」
「市民プールとかですね」
「……きみも……こんな危ない男について行っちゃいけないだろ。どうしてこんなことしてるんだ」
「……お金たくさんもらえるって聞いたから……」
(……世も末だ……)
「……でも……」
「え?」
突然瞳を潤ませ始めたリョーマに、幸村はぎょっとした。
「……売れなかったら……AVだって……」
「え…エーブイって言ったって……きみ、年齢的に……」
「出られる年齢になるまでに初期費用回収できなかったらAV出演って契約書にハンコ押させてんすよ」
「……おまえ……まだそんなことやってたのか。いい加減にしろ。前の事務所で無茶やってクビになったからモリプロでヒラやってるんだろ?」
「リョーマはまだ処女だもんなー?AV出演決まるまで、ちゃんと処女でいるんだぞー?」
二日酔いとは関係の無い頭痛と眩暈を覚え、幸村はざっくりと前髪を掻き上げた。
「……なにを言って……」
「キャッチコピーも決めてるんすよ。“超ド級ロリ巨乳新人AVデビューで処女喪失☆”ってね」
「………………」
下衆にもほどがある。
しかし、そんな契約書をよく読みもしないで捺印するなど本人にも問題があるといえばある。
「……いや、未成年なんだから親の捺印がいるだろ」
「親というか代理人になるんですけどねリョーマの場合。まあ、複雑なんすよいろいろと。だからまとまった金ちらつかせればー…って、これはオフレコで頼みますよ」
“いろいろ複雑”のひと言で済まされ、この子の人生はこの先どうなっていくのだろうと思うと複雑な気持ちになる。いやしかし、そんなアイドルはこれまでいくらでも見てきた。このリョーマだけが特別な例というわけではない。
(……でもな……)
「じゃ、とりあえずおっぱい揉んでやってくださいよ」
「は?」
「恒例じゃないすかー」
「いや、恒例じゃないだろ。俺はそういうのは……」
「相変わらずカタいなー幸村さんは。でもリョーマはもう慣れたもんなー?」
「……どういうことだ」
「絶賛売り込み中ですからね、今日も2~3社回ってきたとこですよ」
ほら。と、背中を押され、リョーマはおずおずと幸村の前に立った。
見れば見るほどいい胸をしている。
小さなビキニで支えているだけだが、しっかりと上を向いて、形を保っているのに硬くはなさそうだ。むしろふわふわ感のある、極上の乳房だ。
「幸村さんには特別に生で触ってもらうか。な?」
「いやいや、俺はいいから」
「まあまあまあ!!」
おい!と言いかけたとき、太田が強引に腕を掴み、胸に引き寄せた。
むに。
という感触を知ってしまえば、もうどうしようもない。
(…っく……なんてもちもち…いや…ふわふわ……なに…なんだこれ……上質なパン生地……薄いけど絶対破れない膜にクリームを包んだみたいな……)
「……っ……」
まずい。勃起しそうだ。
幸村は咄嗟に手を離すと、二人に「帰ってくれ!」と告げた。
「幸村さん!!」
「載せるかどうかは追って連絡する!」


なんてことだ。
よりにもよって、あんな小さな子に欲情してしまうとは。
(……そういう趣味は絶対に無いと思ってたけど……)
げっそりとした顔で帰り支度をしていると、新人の切原が書類を持ってやってきた。
「“ヤングラ”の応募者、ここまで絞れたんですけど……どうすかね」
「ああ、見ておくから置いておいてくれ。俺はもう今日は帰るから」
「お疲れさまです!」
ヤングラ=ヤンクラグランプリとは、毎年『月刊ヤングクラブ』で開催されるグラビアコンテストで、グラドルの登竜門としても名高い。プロアマ問わないところが特徴で、年々応募者が増えている。
何枚か書類に目を通すも、いっこうにこれといった応募者はいない。
「……なんか……ぱっとしないな」
「えっ…そうですか~?今回はいいと思ったんすけど」
「…………………」
どれも同じ顔に見える。と言おうとしたとき、先ほどのリョーマの印象が脳裏に焼き付いているからだと気付いた。
(……やっぱり疲れてるんだ……)

社屋を出ると、幸村はぎょっとした顔で目の前の少女を見た。
「……きみ……」
「……あの……お疲れ様です……」
なんでここにいるんだ。と、目を合わせないよう足早に歩くも、まるで捨て猫のようにうしろからついてくる。
おおかた、太田から“巻中が取れるまで戻ってくるな”とでも言われたのだろう。
「……巻中……取れるまで戻って来るなって言われて……」
(やっぱりな)
「……お願いします……なんでもしますから……」
流しのタクシーに手を振り、幸村はリョーマの頭をぽんぽんと撫でた。
「タクシー代出してあげるから帰るんだ」
「………………」
停車したタクシーに「モリプロまで」と告げると、幸村は強引にリョーマの体を後部座席に押し込んだ。が、突然の衝撃に「えっ?」と声を上げた。
「…っ載せてもらえるまで離さないから!!」
「……っちょ……」
「お客さん?乗るんですか?信号変わっちゃいますよ」
「こ…っこら!離せ!」
いやだー!と、リョーマはぐいぐい幸村の腕を引っ張っている。しかも、わざと自分の胸に押し付けるように。
(…こ…っこいつ……)
「ちょっとお客さん!?」
後続車にクラクションを鳴らされ、運転手の焦りも頂点に達したところで幸村は渋々車に乗り込んだ。
「……まったく……なんて子だ……」
「モリプロには行かない」
「は!?」
「……幸村さんの家……」
「……おいおい、いい加減にしてくれ。つまみ出すぞ?」
下手に出ていれば。という顔で、初めて怒りの口調を出した幸村に、リョーマはびく、と肩を震わせた。
「……ぅ…っぅ……」
「ウソ泣きしてもダメだ」
「……だって……じ…事務所に戻ったら……お仕置きされる……」
(……お仕置き……?)
「……っふ…っぅ…っも…やだ……エッチなことされるのやだ……」
ぎょっとした顔で運転手がミラー越しに見ている。
「太田に何かされてるのか?」
「……っ…え…AVに出る練習…って……」
「……わかった、事務所じゃなくてきみの家まで送っていくから」
「……家……ないもん……」
「ええ?」
「……太田さんのとこに住んでる……」
幸村はすぐさま携帯を取り出し、太田に連絡を入れた。
『あっ社長!?決まりました?巻中?いやーありがとうございます~っ』
「巻中の話じゃない。今すぐリョーマを引き取りにこい」
『え?あいつ何かやらかしました?』
「………………」
ほとんどヤ●ザだ。幸村が思わず口を噤むほどの冷たい声に変貌した太田は「まいったなー」とため息を零した。
『あいつ、乳しかないっしょ?しゃべりもできねーわ顔もガキっぽいわで、仕事無いんすわ。まあね、そういうツテが無いわけじゃないんすよ。ああいうのが好きなおえらいさんもたくさんいますからね。そういうとこに斡旋するって手もありますけどね』
「……太田……この子にどんな事情があるか知らないが、もうこんな無茶な商売はやめろ」
『まーいいっすわ。とりあえずうちに送ってください。今日は顎はずれるまでしゃぶらせてやんねーとなあ、……おい聞こえるか!!?リョーマ!!』
当然聞こえたのか、リョーマは声も無く、ただ全身を震わせている。
もうウソ泣きでもなんでもないのだ。ということがわかる。
(……ここで帰したら夢見が……悪いどころじゃない……)


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